ブルゴーニュの日本人ワインメーカー、斉藤政一さん。
「健康にやさしい」を意識した、試行錯誤の有機栽培。斉藤政一さんがドメーヌを立ち上げ、順調に名声を上げている記事を目にしながらも、まだ一度も訪問したことが無かったメゾン・プティ・ロワ Maison Petit Roy は、ショレイ レ ボーヌの大きなシャトーの敷地の横に、謙虚に、堅固に立っていた。
日中は仕事があるので夕方17時頃ならとアポイントを受けてくださった斉藤政一さんは、夕方の道をのどかに長ネギを持ってご自宅に戻ってきた。
過去の思い出がフラッシュバックする。今までも何故か歴代の生産者たちが、長ネギを持って帰ってくる姿に出くわしたことがある。ルイ・カリヨン、アンリ・ペロミノ(お二人とも現在は引退して夫々息子の代になっていますが)…そしてその度に改めて思ったことがある。
ああ、この人たちは「ワインメーカー」ではない。真に「土に生きる人たちなのだ」 と。
門を開けてもらって中に入ると、花壇ほどの小さなスペースに、柔らかくて美味しそうなレタスが育っていた。正真正銘、政一さんの無農薬手作りレタス。まるで毎日声をかけられていそうな箱入り娘の野菜たちだった。
ブドウ栽培にも政一さんは同じ理念を持って臨んでいる。
自分で編み出した手造りの有機農薬。SO2(酸化防止剤)ゼロへの挑戦。
最初に見せてくださったのは、ブドウの病気に対効するために植物の力を結集した調剤タンク。
ビオやビオディナミで使われるトクサ、イラクサなどのオーソドックスなものはもちろん、自ら積極的に研究してあらゆる植物の「力」を借り、一般に使用される農薬同等の効果を見込める”不思議な”自家製トリートメント調合液を作っている。
その調剤の一つを少しタンクから注ぎだして臭いを嗅がせてくれた。
単純に、臭い…。私たちは思わず顔を見合わせて笑った。
でも、健康に良い青汁が苦いのと同じように、この液には体に悪いという危険性を感じない。その小さな魔法の調剤庫を、将来は独自のトリートメント剤のライブラリにしたいのだそうだ。
2019年夏の訪問当時にまだ3歳と4歳の幼い姫君たちのお父さん。苦労を共にして一緒に寄り添っていこうと覚悟を決め、一心に支えてくれている若い奥様。政一さんは一家の大黒柱として、身体を大切に、健康に仕事に励まなければならない。農薬の弊害を受けて体調をこわした農家は沢山いるのだ。この「自然農薬」なら、家族に心配をかけることもなく、安心して仕事を続けることができるだろう。
18年の白は醸造所のタンクから試飲。
サヴォワのブュジェイ村からブドウを買い付けて造っているアルテス、ブルゴーニュのアリゴテ、そしてシャルドネ。
18年の赤は,地下セラーの樽の中で寝かせている。
コツコツと自らの手で掘ったセラーに、所狭しと並べられた自家セラーには、想像以上にたくさんのミクロキュヴェが"育てられて"いた"。ワインの"熟成"を意味する"élevage"は,フランス語では"élever"、"育てる"から来ている。
斉藤政一さんが到達点をめざすのは、やはり赤ワイン。
醸造所で白ワインの試飲を終えると、私たちを地下セラーに招いて政一さんは言った。
「僕のメインは、赤ワインです。」
ポマールの丘下方の畑 ブルゴーニュ・レ・ゾルム,コルゴルワンからとれるコート・ド・ニュイ ヴィラージュ、ナントゥー からとれるオート・コート・ド・ボーヌ(2018年に始めた新たなキュヴェで、将来が楽しみな面白い酒質でした!)、村名マランジュ、そしてドメーヌの本拠地、ショレイ レ ボーヌ。
自由な香りの幅、自然で優しい滋味。いつまでも傍においてグラスの香りを煽り楽しんでいたくなるワイン。
SО2(亜硫酸)無添加にも挑戦している。ご自身のドメーヌを持つ前に、長い下積みがあってこそ出来ること。
醸造では何も加えずに、技術の進歩にも頼ることなく、試行錯誤の独自の対処法により丹念に育てたブドウの力を信じて自然に引き出す。
力まずに「自然」から生まれる、未来のワインの成長株。「これから」がとても楽しみなドメーヌです!
(2019年6月20日訪問)
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観光局提携ガイド ブルゴーニュ・レザンドール 裕子ショケ
プティ・ロワのワイン 現在のラインナップ
白ワイン
- Bourgogne Chardonnay
- Bourgogne Aligoté
- Saint Romain Les Perrières
- Altesse
赤ワイン
- Bourgogne de Sousa
- Bourgogne Les Lormes
- Bourgogne Souvenir
- Bourgogne Hautes-Côtes de Beaune
- Chorey-lès-Beaune
- Côte de Nuits-Villages
- Maranges Bas des Lyères
スパークリングワイン Vin mousseux
Fou du Roy
著者 ブルゴーニュ・レザンドール 裕子ショケ
Bourgogne Raisin d'or Yuko Choquet
プロ・愛好家向けワイン専門通訳ガイド/ワインツアー/レクチャー/取材撮影コーディネーター
歴史的・文化的に観たブルゴーニュワイン、ドメーヌ訪問記、フランスの美しい村々、食文化などについて、通訳ガイドの仕事を通じて今まで出会ってきたお客様の興味にそった題材をブログやフェイスブックでご紹介しています。